vol.2 筋ジストロフィー

 今回は、筋疾患で代表的な筋ジストロフィーを扱う。

 筋ジストロフィーは、慢性・進行性に経過し、骨格筋の変性・壊死と筋力低下を主徴とする遺伝性の疾患である。Duchenne型、Becker型、肢帯型、顔面肩甲上腕型(FSH型)などがある。最も頻度の高いDuchenne型は、男児3,000~3,500人に1人の割合で発症する。

 Duchenne型筋ジストロフィーは、ジストロフィン(筋細胞膜の維持に重要な役割をしているタンパク質)が先天的に欠損し、筋細胞膜の保持、強化、情報伝達に異常をきたした疾患である。

 

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Key Word

 Gowers徴候(登攀性起立)、腓腹筋肥大近位筋の筋力低下・筋萎縮、血清CK ↑ 

 

113B39
5歳の男児。走るのが遅いことを心配した母親に連れられて来院した。1年前から転びやすいことに母親は気づいていた。先日の運動会で他の子どもに比べて走るのが著しく遅いことが心配になり来院した。周産期、乳児期には特記すべきことはない。母方叔父が心不全により25歳で死亡。身長104cm、体重17kg。体温36.8℃。咽頭に発赤を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。腱反射に異常を認めない。下腿の肥大を認める。血液所見:赤血球468万、Hb 12.6g/dL、Ht 37%、白血球9,800、血小板21万。血液生化学所見:総蛋白6.2g/dL、アルブミン3.8g/dL、AST 436U/L、ALT 478U/L、CK 12,300IU/L(基準46~230)、尿素窒素9mg/dL、クレアチニン0.4mg/dL。

患児に認められる所見はどれか。

a Albright徴候
b 登はん性起立
c スカーフ徴候
d Horner徴候
e 筋強直現象


解説

 母方叔父が心不全により25歳で死亡 →何らかの遺伝性疾患

 下腿の肥大 →仮性肥大

 CK上昇 →筋疾患

  ⇒診断:Duchenne型筋ジストロフィー

解答:b

 

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家系図を以下に示す。

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この家系図における遺伝形式を呈するのはどれか。

a Duchenne型筋ジストロフィー
b Sturge-Weber症候群
フェニルケトン尿症
神経線維腫症I型
e Huntington病


解説
 男性のみが罹患、母方由来 →X連鎖劣性遺伝

解答:a

 

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vol.1 筋萎縮性側索硬化症(ALS)

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に対する嘱託殺人容疑で医師2人が逮捕された、というニュースが世間を驚かせた。そもそもALSとはどのような病気なのか。まずはそこから解説しよう。

 

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 ALSは上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が障害される疾患で、腱反射は亢進している場合も低下している場合もある。また、四大陰性症状は重要で、感覚障害や眼球運動障害がないため、寝たきりになっても褥瘡は生じにくい(→105G20)。

 

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 平均生存期間は発症後3~5年と短く、治療はリハビリや緩和ケアが主体となる。今回の事件でも、患者女性は寝たきりの状態であり、身の回りのことは全て訪問看護師が行っていたとされる。ALSと診断され、主治医から治療法がないと告げられたときに感じたであろう絶望感は、いわゆる健常人である私などには想像もつかない。「死にたい」という気持ちになるのも無理はない。

 「だからといって死を望む者を積極的に死に至らしめるのは間違っている」という意見が出るのも、毎回のことである。確かに、日本では安楽死は認められていない。また、今回の事件は主治医以外の医師が薬剤を投与したという奇妙なケースである。

 ニュースを耳にし、ネットでの書き込みを見ていて、私はずっと違和感を覚えている。

 患者女性を死に至らしめた医師2人を責める声は多く挙がっており、いわゆる「炎上」の真っ只中である。しかし、先日自殺した三浦春馬さんを責める声は皆無である。こう書くと、「何を言っているんだ、三浦さんと患者女性とでは状況が違うではないか。悩み苦しみ自殺した人を誰が責めようか」と多くの方が言うだろう。

 そのような方々が間違っているとは思わないが、ここで一度、考えてみてほしい。「自ら死を望み、実行した」という点では同じなのだ。では何が違うのか。1つ分かりやすいのは、「自分で実行したかどうか」である。ただ、この点に関してははっきり違うとは言い難い。なぜなら、患者女性は「殺された」訳ではなく、自分で実行できないから他人に頼んで「実行してもらった」からである。広い意味で言えば自分で実行したのである。

 「安楽死は許されない」というのは立派な意見である。また、私は高校時代にディベートの授業でそちら側をもって発言したこともあるから、許されないという根拠もある程度は理解しているつもりだ。

 医師たちを責める方々を論破しようとしているつもりは毛頭ないし、できるとも考えていない。安楽死について「深く」考えたうえで主張してほしいのだ。ただ楽になりたいだけで死を望む人ばかりではない。そこには十人十色の理由・背景・経緯がある。本来、個別の事案について「その他大勢」がとやかく言うべきではないのかもしれない。それでも今回の事件に対して何か主張するのであれば、安楽死尊厳死の違い、なぜ海外では安楽死が認められているのかくらいの知識は持っていて頂きたい。

 

 それでは、ALSに関する国家試験問題を解いてみよう。

 

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筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉の診断に有用なのはどれか。

a 脳波検査
b 針筋電図検査
c 平衡機能検査
d 脊髄腔造影検査
e 感覚神経伝導検査


解答: b

 

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64歳の男性。ろれつの回りにくさと体重減少を主訴に来院した。半年前から話しにくさを自覚しており、同僚からも声が小さくて聞き取りにくいと指摘されるようになった。2か月前から食事に時間がかかるようになり、2か月間で体重が5kg減少している。1か月前からは両手指の脱力で箸が使いづらく、階段昇降も困難になってきたため受診した。意識は清明。眼球運動に制限はなく顔面の感覚には異常を認めないが、咬筋および口輪筋の筋力低下を認め、舌に萎縮と線維束性収縮を認める。四肢は遠位部優位に軽度の筋萎縮および中等度の筋力低下を認め、前胸部、左上腕および両側大腿部に線維束性収縮を認める。腱反射は全般に亢進しており、偽性の足間代を両側性に認める。Babinski徴候は両側陽性。四肢および体幹には感覚障害を認めない。血液生化学所見:総蛋白5.8g/dL、アルブミン3.5g/dL、尿素窒素11mg/dL、クレアチニン0.4mg/dL、血糖85mg/dL、HbA1c 4.5%(基準4.6~6.2)、CK 182U/L(基準30~140)。動脈血ガス分析(room air):pH 7.38、PaCO2 45Torr、PaO2 78Torr、HCO3- 23mEq/L。呼吸機能検査:%VC 62%。末梢神経伝導検査に異常を認めない。針筋電図では僧帽筋、第1背側骨間筋および大腿四頭筋に安静時での線維自発電位と陽性鋭波、筋収縮時には高振幅電位を認める。頸椎エックス線写真および頭部単純MRIに異常を認めない。嚥下造影検査で造影剤の梨状窩への貯留と軽度の気道内流入とを認める。

この時点でまず検討すべきなのはどれか。

a 胃瘻造設
b 気管切開
モルヒネ内服
d エダラボン静注
e リルゾール内服


解答: a

 

Thank you. See you again.